ギネスビールは、共感を呼ぶ巧みな広告で有名です。1929年に最初のキャッチコピー「Guiness is good for you」を発表した時、ルパート・ギネスはこう宣言しました。曰く「我々の広告は、我々のビールと同等の品質でなくてはならない」と。ルパート・ギネスは自社ビールの高い品質に自信を持っていたでしょうから、この宣言はマーケターがクリエイティブ品質を追い求める長大なトレンドが始まった瞬間の象徴、とも言えます。
しかし、クリエイティブだけに集中していれば十分なのでしょうか?さまざまなブランドが膨大な時間と労量をかけてオーディエンスにマーケティング・メッセージを届け、ブランドのアイデンティティを創り上げることに、私たちは慣れっこになっています。デジタル環境はこうした取り組みに欠かせない重要なパーツです。にもかかわらず、デジタル広告の実に10%近くが不適切な、またはブランドにふさわしくないコンテンツ環境で表示されています。これを聞いて「OK、だからなに!?」と思うかもしれません。
IASのCMOトニー・マーロウは先日、ニューヨークで開催されたAdvertising Weekのパネルセッションのモデレーターを務め、コンテンツ環境のコンテキストというトピックに関してパネリストたちと議論を交わしました。広告主、パブリッシャー、代理店と生体認証調査会社からなるパネリストたちは満場一致で、「ブランドセーフティ」とは、一般的に不快とみなされる種類のコンテンツから広告を遠ざけることだと同意しました。「テロリストの暴力や露骨なアダルトコンテンツの横に広告が表示されることは誰も望んでいません。ブランドセーフティが最優先事項です。」と、あるパネリストは語っています。
別の言い方をすると、ブランドセーフティは、広告を取り囲む潜在的に不適切なコンテンツとブランドが否定的に関連付けられ、ブランドに有害な影響を及ぼすことを積極的に防ぐことなのです。
ブランドリスクは大きな代償を伴います。”間違った”コンテンツの横に表示されるほんのコンマ数秒で、長年にわたって慎重に練り上げられたブランドイメージが破壊される可能性があるのです。その広告の画面キャプチャーが投稿されたりすれば、ダメージはさらに拡大します。次に起こるのはデジタル版「連帯責任」です。作り上げたブランドイメージは崩れ去り、ブランドが体現するのはもはや何か別のものになってしまうでしょう。
根拠もなしにこんなことを言っているわけではありません。インテグラル アド サイエンス(IAS)が実施した生体測定を用いた調査結果によると、人間は広告を取り巻くコンテンツ環境全体に対して反応するのであって、その一部のみに反応を示すわけではないのです。リアルタイムに脳波を測定しながらデジタル広告を閲覧してもらった調査では、同じ広告を高品質なコンテンツ環境で閲覧した場合、低品質な環境で閲覧した場合と比較して好感度が高いことが分かりました。高品質なコンテンツ環境では、脳がより深い認知処理を行い、長期記憶と関連の高い脳の領域の活性レベルが高まることも分かっています。
キャンペーンからよりよい結果を得るために、ブランドにとって適合性の高いコンテキストを探求することこそ、ブランド適合性の概念なのです。
ブランドの「安全性」から「適合性」へシフトするとき
ブランド適合性では、ブランドのニーズにマッチした文脈、意味、そしてオンラインコンテンツの潜在的な影響を考慮してキャンペーンを設計します。ブランド適合性の意味するところは、明らかに不適切なコンテンツへのプレイスメントを回避するだけなく、ブランドにとって効果的な環境を特定することなのです。
例えば、子供向けのおもちゃブランドにとっての適切なコンテンツ環境は、アルコール飲料ブランドのそれとは大きく異なるでしょう。IASは、各ブランドにとっての適合性は、文脈によってグラデーションのように連続した情報として存在すると認識しています。リスクを回避するだけでなく、適切な消費者に効果的にリーチするために、デジタルメッセージが適切な環境で閲覧されるようにすることが、これまで以上に重要です。
ターゲットオーディエンスとのエンゲージメント効果を最大化するためには、ブランドのユニークなイメージとメッセージを理解する必要があります。例えば、自動車のプロモーションであれば、子供向けのコンテンツではなく、社会人向けにキュレーションされたメディアの方が、広告を取り囲むコンテンツ環境との関連性やエンゲージメントを活用して適合性を高めることができます。マーケターは代理店やパブリッシャーといったパートナーとともに、自身のブランド価値に沿ったブランド適合性を判断することで、より適したコンテンツ環境を積極的にターゲットすることができます。
脳神経学調査が示す、広告が表示される環境が劇的なインパクトを持つ証拠
IASはブランドセーフティからブランド適合性へのシフトを先頭に立って推進しています。これは、私たちが行った脳神経学的な調査に裏付けされています。今年、私たちは「脳科学から見るブランド認知~広告閲覧環境におけるハロー効果とブランド好感度への影響に関する調査レポート」を発表し、広告の閲覧環境が広告への反応に劇的なインパクトをもたらすことを示しました。高品質なモバイルコンテンツ環境で閲覧された広告は、同じ広告が低品質な環境で閲覧された場合と比較して74%も好意的に受け止められたのです。
この脳神経調査で示されたのは、人が広告を閲覧するときには広告だけに反応するのではなく、広告が表示されている環境全体に反応しているということです。高品質なコンテンツ環境は、そこで表示される広告に非常にポジティブなハロー効果(*1)をもたらします。ブランドの適合性を重視することで、キャンペーンの効果を高め、全体的な消費者エクスペリエンスがスムーズになり、広告主、パブリッシャー、消費者の全員がメリットを享受することができるのです。同時に調査結果が示唆しているのは、ブランド適合性へのシフトは業界関係者全員の問題だということです。広告主はプロモーションの規模を制限することなくブランド適合性を満たすための要件を示す必要がありますし、パブリッシャーは広告主と積極的に協力してブランド適合性の閾値を理解し、満たす必要があります。
*1 訳注:ハロー効果とは、聖人の頭上に描かれる光輪(ハロー)にちなみ、ある対象を評価する時に、それが持つ顕著な特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象のこと。権威のある人物が専門外のことでも権威があると感じられてしまったり、外見の良い人が信頼できると感じられてしまうことを指します。
業界全体でブランド適合性を取り入れる
ブランド適合性は、なにも意識の高いマーケターだけのものではありません。会社全体で自社ブランドの適合性モデルを理解し、ギアをシフトする必要があります。最近、CNBCのインタビューでP&GのチーフブランドオフィサーMark Pritchardは、「鬱陶しいメッセージの洪水から、消費者から興味を持ってもらえるような有用で面白いブランドコンテンツへと、広告をよみがえらせる努力をしている」と語りました。
彼が語ったことは、白黒の二元的なブランドセーフティから、よりニュアンスに富んだオーダーメイドのブランド適合性への進化を表しています。こんにちのデジタル環境において、私たちはプログラマティック広告で「量」を手に入れました。次は「質」に注目する番です。もちろん、ブランドセーフティは最も重要な課題として常に担保されるべきです。ブランド適合性が高く、安全で量を確保できる環境で広告を届けることは、それに次いで、あるいは同じくらい重要なのです。