テレビはビューアブルでない広告を放送することはできませんし、雑誌や新聞などの印刷媒体には不正インプレッションの心配はありません。ラジオ全盛期には、ブランドセーフティについて大騒ぎすることはありませんでした。
従来型メディアが、デジタルマーケターが現在直面しているこれらの問題に悩まされていないのは、伝統、テクノロジー、そしてFCC(米連邦通信委員会)の規制があるからです。こうした問題は、デジタルだけに特有なものとまでは言えませんが、少なくともデジタル環境から発生した問題です。従来型メディアではインプレッション(広告表示)は当然のこととして当たり前に受け止められていますが、デジタル分野においては、その当然のスタートラインに立つだけでも大変なことです。
この一年で、こういった広告に関する信頼と透明性に関する課題が、業界の枠を超えて真剣な議論の的となりました。IASは起業当初からパートナーがこの問題の解決に取り組むのをサポートしています。さまざまな議論が湧き上がる米国の選挙周期のおかげでブランドセーフティに注目が集まったほか、Marc Pritchard氏やMartin Sorrell氏といった重要人物が課題解決の必要性について声をあげたことで、この問題がかつてないほど注目を集めたことは、私たちだけでなく業界全体にとって喜ばしいことです。
デジタル広告に賢く投資するための最初のステップは確保できるインプレッションの数を計算すること、ではありません。現状を正確に測定し、ビューアビリティや不正広告、ブランドセーフティのリスクが、広告投資にもたらしている影響を把握することです。私たちIASの役割は、あいまいなデジタルトランザクションをより明確にするとともに、バイサイドが何に代金を支払っているのかを自ら把握し、セラーサイドが最適な立場でそれを提供できるよう保証することにあります。
広告費が何に対して支払われているのかを把握し、隠れている無駄を正確に把握することが最初のステップであるならば、次のステップはその無駄をなくすことです。これも、私たちが高い評価をいただいている分野です。無駄を特定したら、それを阻止または回避できるよにサポートします。ビューアビリティ、ブランドセーフティ、不正インプレッションの基準を満たさないインベントリを購入対象から外し、安心で安全な”本当に見られている”インプレッションだけを取引できるよう保証します。つまり私たちは、問題を特定するのみならず、デジタル広告が他の従来型広告では当たり前な「スタートライン」に戻れるようお手伝いしているのです。
しかし、誰もがスタートラインに戻るだけで満足するわけではないことも理解しています。デジタルには特有のチャレンジが付きまといますが、従来型メディアでは得られないユニークなチャンスももたらします。もはや、インプレッションだけをゴールにする必要はありません。ブランドセーフで、不正のない、完全にビューアブルなインプレッションであっても、全てが同じ価値を持つとは限らないことを、私たちは知っています。
私たちは、メディア戦略を策定する上で、パートナーがインプレッションの価値を明確に理解するお手伝いをしたいと考えています。
- 広告がどれくらいの時間見られたら、潜在的顧客にポジティブな影響を与えられるのでしょうか?
- ブランド広告を何秒間視聴すれば、見込み客は顧客になるのでしょうか?
- 広告のフォーマットやクリエイティブで、結果に違いが出るのでしょうか?
- これらの要素はブランドによって、あるいは業界や商品によって大幅に異なるものなのでしょうか?
デジタル広告にとって重要なのは、視聴時間(タイムインビュー)と配信頻度(フリーケンシー)です。ただし、どれくらいの時間と頻度が最適なのかは商品やブランドによって異なるため、業界標準の指標では網羅できません。
さて、デジタル広告の無駄を排除し、マイナスをゼロに戻してようやくスタートラインに戻ったとしましょう。次のステップでは、消費者のエンゲージメントを測るKPIがベースになります。中でも特に把握しておかなくてはいけないのは、特定の広告に対するエンゲージメントがいかに売上拡大につながるか、という点です。第一歩は、広告の視聴時間を確認することです。広告が消費者の目に触れなければ、何も始まりません。様々な意見があるでしょうが、視聴時間があらゆる広告キャンペーンにおいて最も重要な要素であることは確かです。私たちIASはすでに、HP、Publicis、Pernod Ricardといったパートナーが、視聴時間に関するカスタマイズされた指標を作成するサポートをしています。私がこのブログを始めた理由も、ここにあります。単に足し上げられたインプレッション数や、見られたかどうかといった単純なビューアビリティを越えて、それぞれの広告主にとってユニークで大切なインプレッションの価値を理解できるようサポートしてきたことを共有し、知っていただきたいからです。
私が数年前に業界全体の同業者に対し、効果検証や、表示されないインプレッションに浪費される広告費について語り始めたとき、思いがけない抵抗にあって驚きました。こうした同業者の多くは、一般的なKPIに合わせた最適化に長けていたことが、後になって判明しました。これらのKPIが正確性や安全性に掛ける数値に基づいて算出されているという事実よりも、(彼らにとって)快適な現状を維持することのほうが重要であるように当初は思われていたのです。彼らを説得するには時間がかかりました。どうやら、同じことが今も起こっているようです。私はこのシリーズのなかで、初期のパートナーと協力してカスタム指標を完成させるなかで学んだこと、およびその結果としてパートナーが得たインパクトについて共有していきます。
私たちは知見を提供し、プロセスを検討し、私が信じるに至ったこと、つまり消費者ベースの指標がデジタルを進化させるという事実を、皆様に納得していただきたいと思います。
※この記事は英語版Insiderに掲載の「Getting digital to square one」をもとに、IAS Insider Japan編集チームが翻訳、編集しました。