ブランド毀損に繋がる状態を
見過ごす考え自体が存在しないんです
日本を代表するグローバルビューティーカンパニーである資生堂は国内のデジタル広告出稿に関して、日本のアドベリフィケーション(以下:アドベリ)黎明期とも言える2017年から一貫して「ブランド保護・デジタル広告の透明性」を追求し続けてきました。CPC やCPM といった従来のデジタル広告指標だけで評価する考え方から脱却し、展開するブランドすべてのデジタル広告出稿にIAS のアドベリ計測を義務付け、蓄積してきたアドベリデータを掛け合わせた独自の指標を確立。その指標の捉え方・運用方法・改善のヒント・ブランドとして守るべき基準をまとめた「アドベリフィケーションガイドライン」策定も実現し、日本におけるアドベリ領域のトップランナーとして、デジタル広告のより高い透明性と健全性、効率性の模索を続けています。
資生堂ジャパン メディア戦略部 メディアバイインググループでブランドチームのメディアバイイングを中心に、コミュニケーション設計、広告効果検証などの業務をデジタル担当の立場で一気通貫で行っている永田 健人氏にお話を伺いました。
あることから「ブランドセーフティへの意識」がさらに高まった
「広告の出稿スペースとして意図しない不適切な動画チャンネルに、当社の広告が掲出されていたんです」。IAS のアドベリ計測導入を決めた理由を問われ、永田氏はそう振り返ります。「気づかせてくれたのは、コンシューマーセンターに届いたお客さまからの声でした。コンシューマーセンターには、商品に関してのみならず、広告や店頭の情報などありとあらゆる声が集まります。『こんな動画に広告が出ていますが?』というお申し出が、自社のデジタル広告の配信環境を総点検するきっかけとなり、問題意識が急速に高まりました。」
「ブランドを大切にする企業として、お客さまの声を真摯に受け止めました。広告配信面を今以上に精査すべきだ、対策をしないとダメだ、という社内の機運が一気に盛り上がったんです。それまでも、広告配信面の質、いわゆるブランドセーフティに対する問題意識はあったのですが、一気に動き出しました。それで、アドベリツールを扱う会社にお声がけしました」。
ここからが、トップランナーたる会社のスゴさです。課題を認識していない、認識しているけど後回しにするケースも多々あるなかで、驚異的なスピードで IAS 導入を実現したのです。「社内の説得も比較的スムーズに行うことができました。背景にあるのは、『ブランド毀損につながる状態を見過ごすという考え方自体が社内に存在しない』ということですね。この考えは、広告に携わる者だけでなく、商品や施策などマーケティングに携わる社員、営業現場で売り場を盛り立てる社員にも共通しています。『意図せずとはいえ、不適切な広告面への掲載を確認したからには、放ってはおけない』と。本格導入検討段階には、当時の社長からも『それは絶対にやるべきだ』という後押しもあり、導入することのハードルは比較的高くありませんでした」。
広告出稿の選択肢が狭まることは避けたい。
それが IAS を選んだ理由のひとつです
欧米と比べて数年遅れているとも言われる日本のデジタル広告・アドベリ領域ですが、ここ数年は市場の認知やアドベリの重要性も高まっています。それに比例するように国内のみならず、国外からも複数のアドベリ専門業者が日本に参入しています。複数の選択肢があるなかで、資生堂ジャパンがIAS を選んだ理由は何だったのでしょうか?
「メディアカバレッジの広さが大きな理由のひとつです。当社は多数のブランドを展開していて、それぞれのブランドごとにデジタル出稿チャネルやターゲットオーディエンスも異なります。そのため、ブランドごとのメディアプラン策定のプロセスで、選択肢が狭まることは可能な限り避けたいんです」。
「アドベリの重要性は理解しつつも、『アドベリ計測するからこの媒体・メニューしか実施できません』、つまり生活者とのコミュニケーションの可能性が制限されるという状況では本末転倒になってしまう。それを考慮したうえで IAS 導入を提案しました。幅広い選択肢から選べることが重要ですね。もちろん、ブランドによって共通するメディアプランもあります。基本的にはお客さまの多く集まるプラットフォームが対象となるのですが、ブランドの意向により、コミュニケーション戦略に沿った『プラスα』な媒体を選ぶことも事実です。このように柔軟に対応できるのが、IASの大きな強みだと考えています」。
従来のデジタル指標の時代から、
アドベリ指標も加味したうえで評価することが大切
計測対象となるメディアカバレッジが広いことが、資生堂ジャパンが策定した『アドベリフィケーションガイドライン』にも活かされている。「アドベリに関しては、やはり広告会社の理解度や温度感に差があると感じます。ただ、一度合意すれば、その重要性も理解してもらえます。ガイドラインでは『アドベリとは何か?』から始まり、運用時のルールや、判断に迷わないように、ブランドごと・メディアごとのアドベリ指標平均値にも言及しています。メディアプラン策定時のヒントや、改善目標を明確化するためには、それらの指標を共通認識として持つことは重要ですね」。
eCPMという独自の指標にも特長があると、永田氏は続けます。「当社が考える eCPM は Effective CPM を指しています。ここで言う Effective は、ビューアブルかつフラウドフリーなCPM です。CPCやCPM、CTR といった従来のデジタル指標の時代から、これからはアドベリ指標も加味したうえで評価することが大切と考えています」。
策定したガイドラインは、社内に留まることなく、広告会社・運用会社にも展開し、週次レポートの記載項目のひとつとして定着しているそうです。しかし、アドベリ導入のキッカケとなったブランドセーフティは、eCPMに含まれていません。なぜなのでしょうか?
問題に対処するリソースもコストになる。
それを防ぐことができるのは大きなメリット
「ブランドセーフティが eCPM に含まれていない理由は、私たちは当初からブランドリスクゼロを目指しているからです。ですので、あえて指標に組み込まないという決断をしました。幸いなことに、当社独自の配信リスト(セーフリスト)や IAS のファイアーウォールブロッキング(リスクのある広告配信の制限)、ブランドスータビリティー(ブランド適合性)、必須リスト(Required List)を導入することで、現状のブランドリスクは0.2%~0.5% まで改善しました。eCPM には含めていませんが、ブランドセーフティは独立した指標として注視はしています」。
配信リストの運用は、デジタル広告においてはごく一般的な手法です。ただし、配信リストさえ設定していれば、それで問題が解消するということにはなりません。資生堂ジャパンは、そこまで考えたうえで、「ブランドを守る」という理念基づき、次々と新たな施策を打ち出しています。「IAS のデータを使い、配信リストも定期的にメンテナンスしています。アドフラウドが高かったり、ビューアビリティが著しく低い配信先は配信リストから除外しています。また、新たな課題であるビューアビリティ改善を念頭に、入札前ターゲティング(Prebid)も全ブランドでデフォルト導入にすることが決まり、広告会社や運用会社にも周知しています」。
- 対象外ドメイン除外:資生堂ジャパンが作成した配信許可リストに掲載されていないドメインを入札対象から除外
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アドベリ条件抵触インプレッション除外:アドフラウド、ブランドリスク、低ビューアビリティなインプレッションを入札対象から除外
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ドメイン偽装などの除外:資生堂ジャパン配信許可リストにあるドメインのうち、ドメイン偽装と判断されたドメインなどに広告が表示されるのをブロック
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品質基準の最終チェック:ここまでのフィルタリングをすり抜けてしまった在庫をリアルタイムに計測し、資生堂ジャパン品質を満たさないインプレッションに広告が表示されるのをブロック
計測だけにとどまらず、本格的な最適化に舵を切った資生堂ジャパンですが、実際の効果はどう感じているのでしょうか?「これまで導入したソリューションはうまく機能していると感じています。当社の場合、新たなソリューションを導入する際には慎重に検討しますが、IAS と共同で事前テストを実施し、クリティカルな問題が発生しないかも確認できるので、新たな施策を展開しやすいですね」。
機能がよくてもコストが高ければ躊躇することは容易に想像がつきます。相反するように見える「機能導入とコスト」についても、永田さんは説明してくれます。「ブランドセーフティがきっかけでスタートしたので、それを改善できるのであれば必要な費用だという考え方は最初から会社にありました。ただ、計測や最適化を進めていく過程で、ブランドセーフティ・ビューアビリティ・アドフラウドを改善すれば、結果として広告出稿全体の効率もよくなると考えたのです。」。さらには、測ることが難しいコストについても「ブランドリスクやアドフラウドなどの問題が発生した際に伴う、対処にかかる時間もコストなんです。IAS を導入することにより、それらを未然に防ぐことができるというのはメリットだと感じています」。
生活者とのコミュニケーションにおける主体はわれわれ広告主
最後に永田氏に日本のデジタル広告へのメッセージを尋ねたところ、次のような回答が戻ってきました。「現在のデジタルメディアは玉石混淆だと感じています。自衛のためにも、広告の主体である広告主が配信面やアドベリ指標を意識し、正しく理解し、知識も高め、計測・改善していくことが重要だと感じています。同時に、それを広告主に頼るばかりでなく、メディア自身が問題点を改善していく努力も求めていきたいです。今後もデジタルの透明性・業界の健全化を追い求めていくつもりです」。
トップランナーとして、常に新たな施策やアイデア、ソリューションの導入を率先して進める資生堂ジャパンの動向から目が離せない状況は、今後もしばらく続きそうです。
【この方にお話をうかがいました】
資生堂ジャパン株式会社
メディア戦略部 メディアバイインググループ
永田健人 氏2013年入社。営業部門で専門店チャネルの営業を5年間担当した後、2018年にメディア戦略部に異動し、ブランドチームのメディアバイイングを中心に、コミュニケーション設計、広告効果検証などの業務をデジタル担当の立場で一気通貫で行っている。
IASのアドベリフィケーション ソリューションについて詳しくは、IASの担当者/お問い合わせ窓口までお気軽にご連絡ください。