パブリッシャーと広告主の間で、ビューアビリティ、不正、および総合的なメディア品質に関しての対立が高まっていることから、両者の利害が完全には一致しないことは明らかです。パブリッシャーと広告主はいずれも、自らのニーズに応じてビューアビリティのデータを使用しますが、多くの場合、両者のニーズは相反しています。広告主は、こうしたビューアビリティ指標を支払条件と関連付けようとしており、ビューアビリティは実質的に新たな通貨となっています。
当然のことながら、広告主は不正なボットを対象とした広告や、人間が目にする見込みのない広告に資金を投じたくはありません。同時にパブリッシャーは、高いビューアビリティと不正のないトラフィックを証明できるデータを求めています。表面的には、両者の目標はそれほどかけ離れているようには見えませんが、深く掘り下げてみると、異なる様相が見えてきます。
最初の課題は、市場のさまざまなベンダーの間で、ビューアビリティに関する一貫した指標がないということです。調査手法、適用範囲、テクノロジーの利用、および広告呼び出しチェーンにおいてテクノロジーが適用される場所など、複数の要因が絡んでいます。両者の違いはまず、視認される広告インプレッションの定義から始まります。パブリッシャーの観点では、広告が視認可能となるのは、当事者の広告配信サーバーが、広告主の第三者広告配信サーバーを呼び出した直後です。一方、広告主の観点では、第三者広告配信サーバーが広告クリエイティブを送信し、Webサイトでレンダリングされてから、広告を視認できるようになります。この違いを理解するカギは、測定されるインプレッションの総数と、第三者広告配信サーバーのインプレッション数を比較することです。第三者のビューアビリティ測定値は、広告配信サーバーのインプレッション数とほぼ一致している必要がありますが、パブリッシャーを重視したビューアビリティソリューションの多くでは、そうはなりません。
この違いは、なぜ重要なのでしょうか。たとえば、あるユーザーが検索エンジンからWebサイトを訪問し、コンテンツがロードされるまで4秒間待機し、結局そのWebサイトは適切ではなかったため、検索エンジンに戻ったと仮定しましょう。広告クリエイティブは通常、パブリッシャーのコンテンツサーバーの近くにない第三者広告配信サーバーから送信されるため、ページをロードしてから数秒後に広告が表示されます。パブリッシャーによるビューアビリティの計測は、ページのロード時、すなわち広告呼び出し時に始まりますが、マーケターによる計測はその数秒後、つまり広告がパブリッシャーのページに到達してから始まります。1秒表示されれば1インプレッションと定義される世界においては、1秒1秒が大きな違いをもたらします。
もう1つの課題が、不正の検知です。当社の不正検知ラボの研究員によると、不正に関しては基準となる真実が存在しません。どれほど多くの不正が実際に存在しているのか誰もわからず、いずれのソリューションが最も多くの不正を検知しているのかを、不正率だけに基づいて判断することは困難です。このため、ビューアビリティ関連のテクノロジーを有するあらゆるベンダーが、テクノロジーの実際の堅牢性にかかわらず、不正検知において対等な立場にいるように見えてしまいます。広告主の観点では、ボットに費やされる資金は完全に無駄になるため、この不正検知テクノロジーはクラス最高のものである必要があります。パブリッシャーにとっては、最も堅牢な不正検知に投資しようという、同様の金銭的な誘因は存在しません。
最後に、利害関係の不一致は不正やビューアビリティだけにとどまりません。パブリッシャーを重視したビューアビリティソリューションは、パブリッシャーが優れたエンゲージメントと高いCPMを正当化できるよう、追加のデータポイントを提供します。この一例が、広告上でのマウスオーバー率、いわゆる「滞在時間」です。当社では過去4年間にわたってこのデータを収集し、観察してきましたが、エンゲージメントやブランドリフトとは何の関連もないことが判明したため、マーケターへの提供をやめています。
当社のデータサイエンスチームは包括的な調査において、ブランクスペースで置き換えた数百万の広告のマウスオーバー率と、同じキャンペーンの実際の広告でのマウスオーバー率を比較しました。ブランクスペースのマウスオーバー率と、実際の広告上のマウスオーバー率との間には、統計的な差が認められなかったのみならず、ブランクスペースのマウスオーバー率のほうがわずかに高いという結果になりました。
また興味深いことに、当社のデータサイエンスチームは、不正とマウスオーバー率の間に、統計的に有意な関連があることを突き止めました。マーケターがマウスオーバー率を重視してしまうと、そのデータから何のメリットも得られないだけではなく、最悪の場合、不正率の増加につながってしまいます。マーケターから見れば、このデータが優れたCPMを正当化する理由にならないことは確かですが、このデータはエンゲージメントを正当化するために、パブリッシャーから積極的に提供されています。これはつまり、優れたパブリッシャーは読み手側のエンゲージメント率が高くないという意味ではなく(エンゲージメント率が高いのは事実です)、マウスオーバー率のような統計値はこの証明にはならず、マーケターにとって実用的ではないということです。
ビューアビリティは、ユーザーが広告を見る可能性を反映する、客観的な指標であるべきです。マーケターとパブリッシャーは2つの観点からビューアビリティをとらえており、その傾向を促しているのが、別々の主人に仕えているベンダーです。パブリッシャーを重視するビューアビリティソリューションはパブリッシャーに有利に動き、マーケターを重視するソリューションは、マーケターの視点からビューアビリティとメディア品質を捉えています。いずれ業界が、このギャップを埋めることに合意するよう期待していますが、当面の間は、さまざまなデータや観点に基づく交渉が続くと思われます。マーケターであろうとパブリッシャーであろうと、ビューアビリティや不正へのアプローチの違いを理解し、優れたエンゲージメントを正確に示す指標を把握することから始めましょう。